いつの間にか、大学4年生。既に、私たちは進路も決まっていた。
・・・・・・というわけで。
そのお祝いも兼ねて、今日は久々にテニス部のOBで飲み会をすることになった。



「よう!久しぶりだな、お前ら。元気にしてたか?」

「宍戸さん、お久しぶりです!俺たちは変わらず元気ですよ。それより、先輩方こそどうなんですか?お仕事とか、大変でしょう?」

「あ〜ん?何言ってやがる。そんなに柔じゃねぇよ。なぁ、樺地?」

「ウス!」

「まぁ、大変じゃないと言えば嘘になるかも知れないけど、こうやって遊びに来れるぐらいだからね。」

「滝の言う通りやな。ホンマにしんどいときは、こんな時間も作れへんし、遊ぶ体力もあらへんしなぁ。」

「でも、つらいときこそ遊んで気分転換してぇとも思うよな。・・・・・・ま、今日はそんなんじゃねぇし、とにかく楽しもうぜ!」

「そだね!ところでさー、と日吉は最近どうなの〜??」



時間は経っているはずなのに、あの頃とほとんど変わってないんじゃないかと思うぐらいのテンションで適当な挨拶をするみんな。
そんな中、これまた相変わらずのジロー先輩が突然私たちに話を振り、私と日吉も変わらぬ反応を返した。



「え?どう、って・・・・・・??」

「別にどうということもありませんが。」

「・・・・・・ま、この調子じゃ問題は無いみたいだぜ、ジロー。」

「でも、もっと詳しく聞きたいじゃん!」

「とりあえず、店に入ってからでいいんじゃない?」



滝先輩がそうおっしゃり、みんながお店に入った。
そして、この滝先輩の提案は忘れられることなく実行されるみたいで。私の前には滝先輩、その隣にジロー先輩、その隣には向日先輩が座られ、私の隣、つまりジロー先輩の前には日吉が座った。この座り順からして、お店の入り口前で話していた御三方――特にジロー先輩は、私たちに質問攻めをされるだろう。・・・・・・何となく、面接を思い出してしまうのは気の所為だと思いたい。

その予想は外れるでもなく、当たるでもなく。最初はお互いの近況報告とか、私たちの進路のこととかで、そういう話にはならなかった。
だけど、段々お酒の量が増えてくると、自然にと言うか、どうしてもそうなってしまって・・・・・・。



「で?どうなってるんだって??」

「何がですか、向日先輩?」

「とぼけんなよ、。店の前でジローが言ってただろ?2人は最近どうなんだ、って。」

「いえ、日吉も言ったように、特にどうということもないんですが・・・・・・。ねぇ、日吉?」

「・・・・・・あぁ。」

「あれ?ちゃん、まだ日吉のこと、名字で呼んでるんだ。」

「え?あぁ、はい。そうですよ。」

「んじゃあ、日吉の方は〜?」

「日吉も変わらず、ですよ。だから、本当にお話するような変化も無く・・・・・・。」

「ダメだよ!!」



日吉の方は、と尋ねられたときから、ジロー先輩は少し不満そうな表情をされていた。そして、なぜか怒り気味にダメ、と・・・・・・。お酒の所為、かな・・・・・・??



「ダメとは・・・・・・。」

「ダメなものはダメなの!!だってー・・・・・・!」

「あー、わかった。わかってるって、ジロー。だから、とりあえず落ち着け。」



向日先輩がジロー先輩をなだめてらっしゃる。・・・・・・やっぱり、ジロー先輩はお酒が回って来たみたい。



「たしかに『ダメ』は言い過ぎだけど。でも、呼び方変えてもいいんじゃない?俺たちだって、『ちゃん』って名前で呼んでるぐらいなんだから。」



酔っていらっしゃるようには見えない滝先輩もニッコリと爽やかな笑顔と共に、そんなことをおっしゃった。



「で、でも・・・・・・。もう呼び慣れてますし、今更変えるのも・・・・・・。」

はそれでEの?!」

「え・・・・・。は、はい。」

「・・・・・・そう。ちゃんがそう言うんなら、いいか。」

「よくないC〜!!」

「はいはい、わかった。でも、がこう言ってんだから・・・・・・。」



またジロー先輩は向日先輩になだめられていらっしゃる。



「おい、跡部・・・・・・。」



その様子を隣で見ていらっしゃった忍足先輩は、御自身の隣に座っていらっしゃる跡部先輩に何かおっしゃった。



「・・・・・・そうだな。よし、お前ら。そろそろ帰るぞ。」



こうして何とか質問攻撃からは逃れられた。
そして会計中、向日先輩がこちらにいらっしゃり・・・・・・。そのまま、私をギュッと抱きしめられた。



「先輩?」

「さっきは、いろいろと悪かったな。ジローの奴も止め切れなかったし・・・・・・。」

「いえいえ。先輩方は、私たちを心配してくださってるんだ、ってわかってますし。」

「本当、お前はいい奴だなー・・・・・・!」



そうおっしゃって、向日先輩はさらに強く私を抱きしめられた。そこに、ジロー先輩もいらっしゃり・・・・・・。



「ズルイー!俺ものこと、大好きなんだからー・・・・・・!」



と、今度は後ろから抱きしめられ、先輩方に挟まれてしまった。
・・・・・・う、動けない。



「おい、お前ら!何やってんだよ。ったく、激ダサだぜ・・・・・・。さっさと離れてやれ。」



その後、向日先輩はジローと一緒にすんな!などとおっしゃり、ジロー先輩もそれに返したりして、跡部先輩に怒られていらっしゃった。・・・・・・本当、昔と変わらないなぁと思うと、自然と笑みがこぼれた。
今日はすごく楽しかった。

帰り、先輩方や鳳くんと樺地くんとは別れ、日吉に家まで送ってもらってるとき、それを声に出してみた。



「今日はすごく楽しかった。」

「・・・・・・それは良かったな。」



でも、日吉はそうでもなかったみたい。いつもみたいに素直に言えないだけかな〜とも思ったけど、どうやらそういうわけではなさそう。



「楽しくなかった??いろいろと言われたから?」

「それもあるがな。」

「も??」

「わからないのか?」

「えっ?!」

「どうやら、その反応ではわかってない様だな・・・・・・。」



日吉は不機嫌そうなまま、ため息を吐いた。
その原因を私がわからなければならないってことは・・・・・・。



「私の所為・・・・・・???」

「そうじゃない。・・・・・・だが、ある意味、お前も原因ではあるかも知れねぇな。」

「な、何だろう・・・・・・。」

「はぁ・・・・・・。まぁ、いい。正直、話すのは見っともねぇと思うが、のためでもあるから言っておく。」

「う、うん。」

「お前、なぜ向日さんや芥川さんから離れようとしなかったんだ?」



そう言われ、つい先ほどのことが原因なんだと気付く。
たしかに、彼氏のいる前で、他の男の人に抱きしめられるのはどうかと思う。でも、相手はよく知った先輩方。そこまで気にしなくてもいいんじゃない?



「だって、先輩方だもん。他意なんて全く無いだろうし、変に意識して離れるのもどうかと思って。」

の場合、意識しなさすぎだ。もう少し自覚を持て。」

「う〜ん、自覚・・・・・・。」

「何だ、文句でもあるのか?」

「いやいや!無いです、無い。うん、ゴメン。気を付けます。」



日吉も過保護だなぁ〜とは思うけど、それが嫌なわけはないから。私は素直に謝っておいた。



「でも、今日は突然だったから、許してね?今後、気を付けるから。」

「・・・・・・仕方がない。」

「ありがとう。本当、突然だったもんね。向日先輩とジロー先輩は、お酒が入ると距離を詰めちゃうタイプなのかな〜?」

「と言うより、あの人たちは普段からもそうだと思うが?」

「そう??」

「・・・・・・そういうところが意識しなさすぎなんだよ。」

「あ、なるほど。」



私が納得している横で、日吉は呆れた顔をしている。・・・・・・もう、もっと楽しそうにしようよ!
そこで、私は話を少し変えることにした。先輩方の話はやめ、今度は・・・・・・。



「ねぇ、日吉は?いつもは結構距離感があると思うんだけど。お酒を飲んでも近付いてくれないの?」

「・・・・・・。」



普段は私もこんなことを言ったりしない。だけど、今日はお酒が入ってるから。お酒の力に頼るなんて、ちょっとダメかも知れないけど、たまにはいいよね・・・・・・?
日吉も初めは驚いていたけど、少し考えた後、どうやら私の案に乗ってくれたようだ。



「俺はアルコールが入っていたとしても、入っていないときとそれほど変わらないつもりだ。」

「そうなんだ。」

「あぁ。だから、どちらにしても人との距離を詰めるようなタイプじゃないし、どちらにしてもお前には近付きたいと思っている。」

「そうなの?その割には、少し遠いよね。」

「俺はあの人たちと違って、理性が働いているからな。」

「ハハ、先輩方に失礼だよ。・・・・・・でもさ、お酒が入ると、少しは理性が弱まったりしない?」

「するだろうな。」

「だよね。」



2人で目を合わせ、足を止める。
時間も時間だから、周りに人の気配は無い。
それを確認してからお互いに向き合い、日吉はそのままゆっくりと私を抱きしめてくれた。



。」

「ん?」

「こんなこと、絶対に他の奴らにやらせるな。」

「わかった。日吉もね?」

「当たり前だ。」

「うん、ありがとう。」



たった、これだけのやり取りなのに、私はすごく満たされた気分になった。やっぱり、好きな人にこうしてもらえることが特別なんだよね。



「それと、。」

「何?」

「呼び方のことだが・・・・・・。」

「あぁ、名前で呼ぶかどうか?」

「そう、それだ。本当にお前はこのままでもいいのか?」

「うん。たしかに、名前呼びの方が恋人同士って感じだけど、実際そんなの関係無いでしょ?それに、今から呼び方を変えるのって、結構大変そうだと思って。」

「俺もそう思う。・・・・・・だが、気が向いたら呼んでみる。」

「私もたまには呼んでみようかな。」

「あぁ。お互い、無理する必要は無いからな。慣れてから呼び方を変えればいい話だ。」



そんなことを言った後、日吉はあっさりと私から離れた。・・・・・・まぁ、人通りが無いとは言え、道の真ん中でいつまでもこんなことをしているわけにもいかない。
わかってるけど、それでも、やっぱり・・・・・・少し寂しい。



「もう終わり?」

「あぁ。・・・・・・今度は、もう少し落ち着ける場所で、酒の力も借りずにそうさせてもらう。」

「うん、わかった!」



でも、そんな言葉を聞くだけで、また幸せな気持ちが戻ってくる。自然と笑顔になる。
手をつなぎ、歩き出した後、また私は言った。



「今日はすごく楽しかった。」

「・・・・・・そうだな。」













 

やっぱり、早く書けるのは日吉くんみたいです。・・・もちろん、それほど早くないのは、前回と同じ理由なわけですが(苦笑)。
とりあえず、今回も急いで更新しようと思った結果の日吉夢でした。

それと、今回の話を書こうと思ったきっかけは、実際の出来事が原因でもあります。以前、私もお酒の入った先輩(男性)に抱きしめられまして・・・。それこそ、この話みたいに全く他意は無いんですが、ちょっとビックリした、という話をその日一緒に遊んだ同い年の友人(女性)にしたところ。
「あの人は天然たらしだから」的な返答をいただき、それが面白かったので、夢小説のネタにしてみました★(←何故そうなる/汗)

('10/07/23)